09th◇ pure love
幼馴染みのエリザベータから練習試合を申し込まれた。
「よぉし、負けないぞ!この前手に入れた新しい技、エリザベータに見せてやる」
けど…オレは父ちゃんたちに鍛えられてるから、その辺のヤツらより強くなってるんだけど…エリザベータ大丈夫かな?
「いっくよ~!ソードスプラーーッシュ!」
エリザベータはびしょ濡れ…マズい、泣かせちゃった。
「ごめん!大丈夫?お家まで送るから、行こう…」
「ベク君のバカぁぁぁぁ」
エリザベータの手を引いて噴水通りの家まで送り届けた。
ふと、昔の記憶が甦る。懐かしいな…俺がナトル3年生でエリザベータが2年生。あの頃は好きとか嫌いとかそんな感情なんてなくて、ただ楽しくて一緒に遊んでた。
それがたった2年で…
「ベク君のことが好きなの。わたくしと付き合って…お願い」
「エリザベータ、何度も言うけど、俺は君に相応しくない。だから…ごめん!」
エリザベータは成人式を終えた後、真っ直ぐ俺のところにやって来た。俺は付き合えないと断った。それでも毎日、毎日誘いに来るんだ。どうすれば諦めてくれる?エリザベータの落ち込んだ顔なんか見たくもない…笑ってて欲しいって思うよ…だけど、ごめんな、俺は最低な男だ。エリザベータの横に居ていいようなヤツじゃない…君を苦しませることになる…幸せになんて…きっと出来ない。
半年ほどは断り続けた、もう俺にはエリザベータにかける言葉さえ見つからない…それからは逃げることしか思いつかず、朝からずっと魔人の洞窟に籠る。そうやって、ただやり過ごして…年末、エリザベータに恋人が出来たと人伝に聞いた。
あれからエリザベータとは疎遠になったが、それでもやはり幼馴染み。エリザベータには幸せになって欲しいと心から願ってる…兄の心境なんだろうな。エリザベータは俺とは正反対の真面目な人と結婚し、男の子と女の子を授かった。すっかりお母さんになって、温かくて幸せな家庭を築いている。
死期が近いことを察したのか…エリザベータが俺を訪ねてきた。
「久しぶり、何年振りかしらね。ベク君…どうしたの?ずいぶん弱気じゃない。ふふっ、髭も似合う歳になったのね。それでも…相変わらずカッコいい」
「エリザベータは変わらないな、あの頃のまま…すっごく綺麗だ」
最後になるだろうエリザベータとの会話。それ以上は…何も言わなくてもお互いの気持ちは伝わっている。子供の頃のように横に座って…手を繋いで…ただ…微笑んでくれた。