11th◇大人の顔
二つ年下のシェダルさん。去年成人したとはいえ、まだまだ子供みたいなところがある。特に男に対して『警戒心』ってものが全く見受けられない。純真って言うか無垢って言うか…無防備過ぎる!
そんなシェダルさんが近頃、女性らしい艶っぽい顔をするときがあって、妙にドキドキさせられるんだ。きっと周りの男たちも気付いてる…シェダルさんの魅力に…。
シェダルさんは友達だと言うが、相手もそう思ってるかどうかなんて分かんないだろ?だから…私以外の男と仲良くして欲しくないんだ。私の身勝手な独占欲は日に日に強くなっていった。
この独占欲を満たすのは結婚しかない。そう思うがシェダルさんはまだまだ結婚なんて意識してくれてないようで…。
「シェダルさん…二人っきりになれるところに…行かない?」
「いいよ♪うーん、どこがいいかな?」
いつものように軽く返事をするシェダルさん。もしかして私のこと…男だと認識してない?私の『好き』と、シェダルさんの『好き』は違う?はぁぁぁぁ…やっぱり結婚なんて夢のまた夢なのかなぁ。
シェダルさんと訪れたのは森の奥にひっそりと建つ空き家の一室。
「うわぁ、ここに来るの初めて!こんな素敵な家、ジェローム君よく知ってるね♪」
「まぁね…。イム茶、持ってきたんだ。そこに座って飲まない?」
柔らかい陽が射し込むサンルーム。外の冷えた空気からも通りの喧騒からも隔離され、互いの息づかいさえ聞こえそうなほど静かな部屋。そこに置かれた座り心地のよさそうなソファへ誘う。
「ありがとう!わたしクッキー持ってるよ、一緒に食べよ」
他愛のない話をしながら、私はシェダルさんとの距離を詰める。
「…シェダルさん、もう少し警戒した方がよくない?」
「どうして?わたしジェローム君のことが大好きだもん!…もっとそばにいたいよ…」
あまりにも無防備なシェダルさん。私以外の男にも同じような態度を取るのかと思うと、だんだん腹が立ってきた。
「あのね…そう思ってくれるのは嬉しいけど…シェダルさんは女の子なんだから、男とはもっと距離を取らなきゃダメだよ。私だって何するか分かんないんだし、ましてや他の男なんて…絶対近寄っちゃダメ!」
「ジェローム君はそんなことしないでしょ!それに他のみんなもお友達なんだし大丈夫よ!」
どんな信頼なの…私のこともやっぱり男だと思ってないんじゃないの?凹むなぁ…
「大丈夫じゃない!お願いだから、私の言うこと聞いて」
「はぁーい」
そう言いながらもピッタリくっついて離れる気配なし。本当に分かってるのかな?私だって男…なんだよ………
「そろそろ帰ろうか」
立ち上がろうとした私の腕を掴み、すり寄ってくる。
「もう少しだけ…一緒にいようよ」
そう言って私の頬に唇を寄せてくる。だから…気を付けろって忠告したよね?無自覚なの?こっちは必死で堪えてるのにっ!
「そんなこと言わない!私だって本当は……」
恥ずかしそうに俯いたかと思えば、真っ直ぐ私の目を見つめ、抱きついて唇を重ね、舌まで絡めてきた。さっきまでの彼女とは別人のように艶のある大人の女性の色気を出して攻めてくる。………くっ!煽ったのはそっちだからね!
「嫌だったらはっきり言って!」
彼女をソファに押し倒し、首筋に噛みつくようにキスをした。
「っ………ゃっ………」
「そんなんじゃ止めないよ。ホントに嫌なら、ちゃんと抵抗して」
真っ白なシェダルさんの肌が桜色に染まる。
早く『嫌だ!』って言って!
「シェダル……」
「いいよ…ジェローム君なら…。わたしだって大人だよ?ちゃんと分かってる。ジェローム君となら……そうなってもいい…」
子供っぽいだなんて間違い。今、目の前にいるシェダルさんは…私を誘うシェダルさんの顔は…大人だ。私の男を引き出すのに充分過ぎるくらい魅力的な大人の女性だ。
すっかり日も落ち、部屋も冷えてきた。
「帰ろう…送るよ」
脱ぎ捨てた服を拾い集め、何事もなかったかのように身を整える。見た目はいつも通りに戻ったけど、私たちの関係は、ほんの数刻前とは違う。より深く分かり合った私たちは…もう離れるなんて…出来ない…そうだよね?
家まで送りながら、私はシェダルさんにプロポーズするって決めた。他の男から守るにはやっぱりそれが一番いい。……いや、違うな、私自身が彼女と一時も離れたくないんだ。ずっと…ずっとそばにいたい。
「ジェローム君、送ってくれてありがとう。今日は楽しかった、明日もデートしようね」
「明日は…ごめん。また誘って」
「そっか………残念」
「あ、そうだ!さっき言ったこと覚えてる?男とは距離を取るんだよ?分かってるね!」
「分かってるって!ちゃんと気をつけるから。ジェローム君、心配し過ぎ!」
さっきの艶のある顔とは違い、子供っぽい無邪気な笑顔で私に手を振る。明日はデートじゃなくて、ちゃんと神殿に誘うから…だからシェダルさん、おとなしく私を待ってて!