12th◇憧れ
「ル〜ク〜バ〜君♪」
禁断の遺跡を出ると、いきなり子猫のように飛び付いてきた。羽根付き帽子が宙を舞う…なんとか押し倒されないように踏ん張った。
「ねぇねぇ、わたしステキな大人になったでしょ?ね?」
「え…っと?あ、あの…」
誰なの?首に腕を回して抱きついて来られちゃ、顔も見えないよ?
「ねえ、ルクバ君ってばぁ♪」
「ちょっと待ってくれる?悪いけど、誰?」
ベリベリと引っ剥がすように彼女の腰を持ち上げ、降ろす。見えた顔は…メロディさん?
「見て見て!さっき成人式終わったの。どう?ちゃんと大人になってるでしょ?」
スカートを少し持ち上げ、クルッと回って、ニッコリと微笑む。子供の頃から大人びた雰囲気の子だったけど、つい今しがた大人の仲間入りをしたとは思えないほどの艶やかさで私の顔を覗き込む。
「素敵な大人になれたかな?」
「う、うん…そうだね」
「やったぁ!じゃぁ、幸運の塔に行こう!」
「?……待って、どうしてそうなる?」
「わたしが素敵な大人になったら、お嫁さんにしてくれるって約束でしょ!だから先ずは恋人にならなきゃ。さ、行きましょ」
確かに見た目は大人になってるけど、言ってる事とやってる事が子供だ。きっと『お嫁さんになる』って、ただ結婚への憧れだけで私の所に来たんじゃないか?
「まだ成人したばかりだろ、そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
「だって…ルクバ君を誰かに取られちゃったらヤダもん!やっと成人したんだよ…やっと告白出来るようになったのに!」
本気なんだろうか…付き合ってから『やっぱり違った』なんてことにならないんだろうか…
「今のまま、友達じゃダメ?」
「ダメ!」
「どうしても?」
「………んー、誰とも…付き合わない?」
「付き合わない!しばらく恋人は作らないから」
「わかった…。じゃぁ、取り敢えず今日は帰る。でも、約束は守ってもらうからね!」
親友ヤニックさんの妹であるメロディさん。確かに子供の頃から仲良しだし、一緒に遊んできたし、お嫁さんになってくれるって話もした。だがしかし!早すぎないか?それに…仮に付き合うにしても、ヤニックさんに何も言わずにって訳にいかないだろ?あ〜、もう!どうすればいい?取り敢えず『断る』って選択肢しか思い浮かばなかった。
そうやってリズさんからも逃げ続けてきた…。
こんな不甲斐ない男なんだから、誰とも付き合わない方がいいんじゃないか?今のところ、恋人がいなくたって別に困ることなんかないし…その方が気楽でいいんだよな。リズさんもメロディさんも、嫌いじゃない、けど…好きかって聞かれると…分からないんだ。もう少し私自身が成長できれば変わるかもしれないけど、今は…独りで構わない。だから…ごめん。