09th◇ aventure
▶エウラリア
「こんにちは。何か特別な役職の方ですか?」
「えっ、俺?よくわかりましたね、制服着てないのに」
「あはっ、バレちゃった。実は…あなたのこと調べたの。ねぇ『ベク』って呼んでいい?」
「別に構いませんけど…」
「じゃあ…ベク、釣りでもしない?」
一応…疑問形だが、がっしりと腕を掴まれてる。行くしかなさそうだな。
取りあえず何匹か釣って、探索に行こう。
「もちろん送ってくれるわよね、ベク?」
「あ…はい…」
なんか調子狂う。すっかり彼女のペースだ…
エウラリアは三歳年上の旅人で、見た目は美女。ちょっと強引で気持ちをストレートに表に出す。だけど、憎めないって言うか…まぁ…嫌いじゃない。
「それじゃあ、また」
「今日はありがとう。明日の朝、ここに来てくれない?ちょっと頼みたいことがあるの」
「わかりました…じゃあ、また明日」
翌朝…ドアをノックするが返事がない。
「おはようございます…入りますよ?」
エウラリアはまだベッドで寝息を立てていた。起こすのも悪いと思い、そっと部屋を出る…つもりだった。昨日はフードが邪魔をしてよく見えなかった…睫毛が長くて、目の下にホクロがあって…唇は……
「そんなに見つめられたら穴が開いちゃうわ。ベクおはよう」
「っ!!…お、おはようございます」
「ベク、顔真っ赤!かわいい!!もしかして惚れた?」
「そんな訳!ふ、ふざけないで下さい!」
「あら、残念。私はベクとなら…そうなってもいいと思ってるのに」
「いい加減にして下さい!俺、帰ります」
「待って!ごめん、冗談だから」
「………で?頼みたいことって何ですか?」
「今日1日、私がベクの恋人。私をエスコートして!」
きっと嫌だと言ってもムダだろう…
「じゃぁ、取りあえず下で朝ご飯でも食べましょうか」
「恋人なんだから、もっとそれらしく誘ってよ」
「……エウラリア、俺と食事でもどうかな?」
自分が言わせたくせに、そんな照れた顔するなよ…こっちが恥ずかしくなるじゃないか!
そしてその日は国中を歩き回った。
「すっかり暗くなったな。そろそろ帰ろう」
エウラリアを宿に送り届ける。
「じゃぁ、おやすみ」
「待って!まだ今日は終わってない…今日1日恋人なんだから…まだ帰さない」
抱きついてキスしてくる。
「俺だって男だよ!これ以上は…」
「私が誘ってるの!ベクが好き、あなたが欲しいの…」
どうしよう…このままじゃ、きっと彼女を傷つけることになる。
「エウラリア待って!俺は…」
「ベク、あなたの未来を縛るつもりなんてないわ。だから今を楽しみましょ!」
エウラリアは俺の服を剥ぎ取り、舌を這わせてくる。
「すごい…鍛えてるんだね。こんなにいい体してるとは思わなかった」
「まぁ、一応これでも山岳兵だから…」
経験はない…エウラリアを満足させられる自信もない。だけど、もう欲望を押さえきれない!エウラリアをベッドに押し倒す。彼女の艶やかなキャラメル色の肌に触れると、敏感に反応し、吐息混じりの甘い声が俺の脳を刺激して…昂っていく
汗ばんだエウラリアの体はそれだけで充分過ぎるほど魅力的で…俺は本能のままエウラリアに溺れた。
朝だ…。俺の腕の中で寝息をたてるエウラリアを起こさないようにそっと抜け出して、部屋の小さな窓を開ける。冬の朝の清浄な澄んだ空気が…俺を嘲笑ってる。エウラリアの頬にキスをして、そのまま酒場を後にした。
「待ってベク!二人で…どっか行かない?」
「ごめん…一度家に帰るよ」
「そう…それがベクの答えなのね」
村を通り過ぎ、魔人の洞窟に籠った。今の俺は…エウラリアを受け留められない…。
全く身の入らない俺は、敵に容赦なく叩きのめされる。それでも洞窟へ入る…いや、逃げ込んでるだけだ。結局エウラリアからも逃げ出すのか…何の覚悟もないまま彼女を抱き、そして逃げ出す。最低だな…
翌朝…エウラリア・ディオールは黙って俺の前から姿を消した。