番外◇奏女の移ろい
先生…
そう、ルクバさんは私の先生。私が生徒だった頃、魔銃導師として教壇に立ってた。
「ねぇ先生、今日はちゃんとご飯食べた?」
「ん?あ、あぁ……いや…寝坊しちゃってさ…」
「また?先生、大人なんだからちゃんと食べなきゃダメよ!ほら、これあげるから食べて」
「あ、うん…ありがとう」
この頃の先生の印象は…『だらしない人』
朝遅く起き出して、昼間はプラプラ。夕刻近く探索に入って、その後お友達と酒場でワイワイ。夜遅く帰って、翌朝は寝坊する。
だから私が朝起こしに行ってあげるの。
「もう朝だよ、いつまで寝てるつもり?今日の授業は先生が担当なんだからね」
「うーん…あと1刻。…まだ大丈夫……だよ……」
「ほら、そんなこと言ってないで早く起きて!」
いい大人なのにって思うけど、なんだか放って置けない。だって…普段はこんなだけど、エルネア杯で戦ってる先生はすっごくカッコいいんだもん!
「ねぇ、先生は…好きな人……いるの?」
何回聞いたかな?最初は恋人いるなら早く結婚してご飯作ってもらえばいいのにって思って、確認のために聞いてた。
「いや…別に」
って言ってた先生が、ある日…
「まぁ…私にも好きな人くらいいるよ」
その言葉を聞いた瞬間…思考停止。その場から逃げるように走った。
………えっ?ウソでしょ?そ、そりゃあ…先生は10歳だし、大人だし、当然だよね…むしろ10歳で好きな人もいないって方がおかしい……そんなこと…子供の私でもわかる!
その時思い知った…自覚なかったけど、私…先生が大好きだったんだ……
そんなこんなで私の初恋は見事に散った。だって先生は私が卒業する前に結婚しちゃったんだもん…どうすることも出来ないし、忘れるしかないでしょ!
とは言ったものの…忘れるどころか私の中の先生はどんどん美化されているみたいで…先生より素敵な人なんて存在しないんじゃない?って思えてきた。同級生の男の子なんて幼くて頼りないし…いや、先生だって頼りないんだけど…ああああっ、ダメだ…きっと私には先生より好きになれる人なんて現れないんだ!
初恋を引きずったまま数年が経ち、何故か13歳で奏女を勤めることになった。私…このまま…ずっと奏女のままかもしれない…さすがに焦るよ…ね。
そんな時出会ったのがマルク君。どんな出会いだったかすら思い出せないんだけど、気づいたら何時もそばにいた。年下だし、もちろん恋愛感情なんて無かったんだけど…彼の両親が共に魔銃師会所属で、お母様は導師。おまけに彼は『カーネイの瞳』の才持ち。そこに気づいた途端、私の興味が湧いてきた。やっぱりルクバさんが魔銃師だから魔銃ってだけで株が上がっちゃう…マルク君自身は『国民』なんだけどね。
ちょっと気になるマルク君。しかし彼はなんとも掴み難い性格で…15年の私の人生経験を以ってしても理解が追いつかない。その究極が…
「なぁオクタヴィア、俺と結婚しない?」
「はぁ?」
「結婚しようぜ、俺たち」
「あのぉ…わたし達って、付き合ってた?」
友達以上ではある事は認めるけど『好き』だなんて言ったこともないし言われたこともない。もちろん『幸運の塔』に誘ったこともないし誘われたこともない。なのにいきなりプロポーズ!?訳わかんない…
「どうせ付き合ったら結婚するんだし、順番なんてどうでもいいだろ」
「いや…よくないでしょ。だからっ!」
マルク君の腕を掴んで引っ張る。なんかこう…もっとドキドキしたりするのかと思ったけど、プロポーズしてくれた相手に告白って…もはやプロセスを踏んでるだけ。私の想像してたのと違う!
「じゃ、明日デート。それと奏女の引継ぎも準備しとけよ」
「あ、えっと…それが一番の問題なのよね…」
「辞めたくない?」
「じゃなくて…私の友達はみんな結婚してるから、誰に頼もうか…と……」
引継ぎ相手が決まらないまま三度目のデート。デートを終えてマルク君が居室まで送ってくれたんだけど…部屋に着くと、そこにはあどけなさの残る女性がいて…
「はじめまして!奏女を譲って頂けると聞きました!…あ、ごめんなさい、兄がお世話になってます。あたし、妹のバルバラです」
「え?あ、えっと…こちら…こそ?え、ちょっと待って!妹さん?」
「あぁ、俺の妹。奏女やりたいって言うから来てもらった」
「あ、そうなの?……え?そんなんでいいの?大丈夫?」
「もちろんです!」
と言うわけで、無事お役御免。
なんだろなぁ…。何年もルクバさんに固執してたのに、あっさり他の人と結婚しちゃう自分が信じられない。相手がマルク君だからなんだろうけど、それにしても…何もかもが軽い!!今まで重く考えすぎてたのかな?だから上手くいかなかったのかもしれないわね。
これからはマルク君と楽しく過ごそう♪行き当たりばったりな人生だって悪くない!