04th◇2.似て非なるもの
あれから3年の月日が過ぎた…それでもわたくしは彼の事を忘れられず、結婚どころか恋人すら考えられずにいた。ある日、紹介されたと、神職の方がわたくしを訪ねてこられた。わたくしは…この方と結婚する!
不意にそう感じた。奏士だから顔なんて見えないのに…。自分でも何故そう感じたのか分からない。後に、この方と本当に結婚する事になるのだけれど…。
彼とは相性がいいのか、仲良くなるのにさほど時間はかからなかった。そんな短い間で分かったのは、彼には謎が多いって事。
まず、奏士なので顔が謎。
13歳にして未だ恋人がいない謎。
モテ王なのに恋人がいない謎。
いつも朝から女性に囲まれてるのに恋人がいない謎。
よく幸運の塔に誘われてるのに恋人がいない謎。
最後に、絶対に素顔を見せてくれない謎。
……………まぁ、チャラい感じでしょ?
出会った時に『結婚する』って感じたわたくしが信じられない…。知れば知るほど、この人じゃない!って思うんだけど…それでも会いに来てくれる事が嬉しかったりもする。
そんなこんなで出会って半年、彼が真面目な顔して(見えないから雰囲気ね)やって来た。わたくしはてっきり幸運の塔に誘われるんだと思って身構えた。でも連れて行かれたのは神殿だった。
僕から少し話をしていいかな?そう聞かれたが、彼はこのあと長々と話すことになる。要約すると、わたくしの事は幼い頃から知っているって事。わたくしの初恋の相手を知ってるって事。今でもわたくしがその初恋を忘れられずにいる事も理解していると…。そして最後に、僕は殿下を幸運の塔には誘わない。そう告げられた。
わたくしの事はそういう対象ではないと?僕を恋愛対象として見るな、と長々と説明されたの…?気付けばポロポロと涙が流れ落ちていた。
「殿下…」
「違うの!そんなんじゃないから気にしないで。わたくしは別にあなたの事、そんな風に想ってないから!」
「僕はそうだったら嬉しいよ…。殿下の一番が初恋の人でも…僕は構わない。殿下が僕でもいいって思ってくれるなら、誘いに来て。僕は必ずYESと返事をするから…」
っ!ズルい!こんな人に告白なんてするもんですか!だいたい、男の人から告白するもんでしょ?何なの!…………でも…今のセリフは…告白と同じ…だよね?わたくしと…その…………あぁぁぁダメ!すっかり彼のペースに乗せられてる。
「じゃ…じゃぁ、顔見せて」
思いっきり強がって無理難題を押し付けた。なのに…これまで頑なに顔を見せようとしなかった彼が、スッと帽子を外したの。
「なっ…………う、うそ………」
そこにいたのは、あの旅人の彼。髪の色も顔立ちも…まさか、そんな訳ない!
「僕は彼じゃない…似ているだけだよ」
「そんなこと………分かってるわ!」
わたくしは彼に抱きついた。あの人じゃない事は分かってる!これまで一緒に過ごした日々の中で、あなたとあの人を同じ人だなんて感じたことは一度もない。ただ…わたくしの好みがはっきりしただけよ!
彼は王配として生涯わたくしのそばで支えてくれた。そして、ちゃんとプロポーズの時の言葉を守ってくれたの。
「ずっとそばにいる。淋しい思いはさせないから…。だから、僕と結婚してください!」
わたくしは今日、役目を終える…ちゃんと果たせたかな?王として…母として…そしてあなたの妻として……
「ダドリーさん、ありがとう…………」
五歳年上なのに、約束通り最後までわたくしのそばにいてくれた彼には感謝しかない。先に逝くけど、待ってる。あなたが『もういい』って満足したら迎えに来るわね…。
わたくしがガノスへ身を移して7日、もう満足したの?
「会いたかった…僕は君と一緒じゃないとダメなんだ。7日がとても長かったよ…もう二度と離れないからね」