11th◇変わりゆく関係
▶仲のいい友達だけど兄妹のように過ごしてきたジェロームとシェダル。二人の関係は『あの日』を境に変わり始めた…。❬ジェローム視点❭
数日前…
「シェダルさん、待って!」
彼女の腕を掴み、引き留める。
「離して!お願い………」
掴んでいた手が弛む。やはり私じゃないってことなのか…
「ごめん…。私はただ、避けられてる理由が知りたいだけなんだ……」
一年前…
彼女より二年早く大人になった私は、周りに感化されるように恋の相手を探していた。しかし…そう上手くはいかない。幸運の塔で幾度となく振られる…その一番カッコ悪い姿をまだ子供だった彼女に見られた。この前も、その前も…そして今回で三度目だ。気まずい空気が私たちの間に流れた。
「またシェダルちゃんにカッコ悪いところ…見られちゃったな」
「ジェローム君はカッコ悪くないよ!わたしが大人になったらお嫁さんになってあげる!だから…だから元気出して!」
「シェダルちゃんが私のお嫁さんになってくれるの?それは楽しみだな」
子供ながら精一杯気遣ってくれたんだよな。こんな小さなシェダルちゃんにまで心配させて…はぁぁ、情けない!
半年前…
彼女が卒業、そして成人式を迎えた。私はただ、お祝いをしようと思って成人式が終わる頃エルネア城を訪れたんだ。
混み合った玉座の間でもすぐに見つけた…ドクリと心臓が大きく打つ。昨日までの幼さが抜け、すっかり大人の『女性』だ。すごく綺麗で…それでいて、めちゃくちゃ可愛くて…。加速する鼓動のせいで胸が……痛い。
式直後だというのに彼女は数名の男に囲まれていた。そして私に気づくことなく、走って城を出て行った。
あの中の誰かと待ち合わせなのか?そう思うと胸がざわつく…考えるより先に足は動き、彼女を必死で追いかけた。
やっと捕まえた。が…何を話すんだ?
「あのさ…二人でどっか行かない?」
いきなり何を言ってる!採取に誘うとか、釣りとか、いろいろあるだろ!
「ごめんなさい。また今度誘って…」
「あ、ごめん!違うんだ!いや…違わないんだけど………あの、本当にごめん!」
「ふふっ。ねぇジェローム君、髪型変えてみない?」
「髪型?あ、うん…別にいいけど……」
いったい何なんだ?私をどうするつもりなんだ?私の誘いは断ったんだよね?疑問だらけのまま応じた…。
「ほら!やっぱりこの方がカッコいいよ!じゃ、次はこの服着てみて」
次は着替えろ?この服って…あなたと同じものじゃないか!二人でこれ着てたら周りは勘違いするんじゃないか?それでもいいの?
あーもう!何を考えてるのか、私にはさっぱり分からない!
私にいろいろさせたあの日から彼女は私を避けるようになり、挨拶すら交わせない日が続いた。なぜ避けられてるのか…全くもって意味が分からない。私が告白まがいのことを言ったのが原因か?でも…もう友達として接することは、私にはムリなんだ。
今…
避けられて三日目の夕刻、ちょうど彼女が森の小道へ入っていくのが見えた。私はどうしても自分の気持ちを伝えたくて…待ち伏せすることにした。出て来たところを捕まえる…それしか彼女と言葉を交わす手段が思い付かなかった。
「シェダルさん…私の話を聞いてくれませんか?」
「………はい。」
日が傾き始めた頃、彼女の手を引いて幸運の塔に向かう。辺りは徐々に暗くなり、着いた時にはすっかり日も落ちていた。
きっと断られる…それでも伝えたい。
「あの…シェダルさんは…好きな人いるの?」
「うん、いるよ…」
「そっか…やっぱりそうだよね。なんかごめん……えっと…………」
「はっきり言って!」
彼女に対して今さら見栄を張る必要なんてないのに、それでもカッコ悪い姿は見せたくないと思う。
「私は、シェダルさんが好きなんだ!私と付き合って欲しい!」
「もちろん………いいよ…」
やっぱりそうだよね…『好きな人』がいるんだもんな。まぁ…言うだけ言ったし、これでよかったんだよな。はぁぁ……また振られたのか…
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?わたしの好きな人はジェローム君なんだよ!」
ついこの前まで子供だった彼女が、頬を染め、少し怒ったような、恥ずかしそうな…複雑な表情をして私の顔を覗き込んできた。
「………っ!待って…………ええっっっっ!!」
「ふふっ。ジェローム君が大好き!」
そう言って飛び付いてきた彼女を思わずギュッと抱きしめたんだ。