11th◇鎧の重み
「ジェローム君!」
「な、なに?なんでそんなにニコニコなの?」
「ふふっ…だって嬉しいから!」
キョロキョロと周りに誰もいない事を確認して、畑仕事をしていたジェローム君に飛びついた。
「うわっ!もう…シェダルさんの服が汚れちゃうよ?」
「わたしもエントリーしてきた!」
「えっ!トーナメントに?シェダルさんも⁉」
「ダメ?」
「そんなことない!シェダルさん強いから優勝出来るよ!…私も勝ち上がれればいいけど、そんなに甘くないだろうな」
「ジェローム君だって強いじゃない。一緒に入隊しようよ!」
「そうだね。負けること考えちゃダメだよね!うん、一緒に入隊しよう!」
「うん♪」
わたしの両親は龍騎士の称号を持つ。だからなのか分からないけど、いずれジェローム君も龍騎士になるって…そう思うの。だから騎士隊の選抜トーナメントにエントリーしてくれたのが凄く嬉しかった。
「わたしと当たるのは決勝だよ!それまでに絶対負けちゃダメだからね!」
「シェダルさんこそ、ちゃんと決勝まで勝ち上がってよ」
わたしには年明けに二人で鎧を着てる姿しか見えてなかった。そしてジェローム君はいつか龍騎士になるんだ!
「ジェローム、シェダル、探索行くよー」
「「はーい!」」
騎士隊に志願したことが母に知れてから、母は嬉しそうにわたしたちを探索に連れ出す。そんなわたし達を父は楽しそうに『いってらっしゃい、頑張ってね!』と送り出す。
母は今でこそ龍騎士だけど、わたしが幼かった頃は農場管理官だった。だから、武術に長けてるだなんて知らなかったのよね…
「うん、ジェロームもシェダルもよく鍛えてる。正式に入隊したら瘴気の森で鍛えてあげるから覚悟しておきなさいね」
「瘴気の森⁉…ジェ、ジェローム君…頑張ってぇ」
「何言ってんの!シェダルさんこそ…頑張れー」
▶
選抜トーナメント決勝。わたし達は対峙した…
ジェローム君に優勝して欲しい!だけど手を抜くのは違う…だから正々堂々、勝負よ!
「手加減なしだからね!」
「臨むところだ!」
試合終了。わたし達は騎兵候補生となった。
選抜トーナメント決勝のこの日は、わたし達にとって大切な日。もう夕刻だけど、ここからはジェローム君との時間を満喫するよ!ジェローム君のお誕生日をお祝いして、結婚記念日のデート。そして…
「ジェローム君に報告があるの。あのね…赤ちゃんできたんだ!」
「えっ?いつ?………いつ生まれるの?」
「えっと…13日?」
「そんな大事なこと…どうして直ぐに言わないのっ!何かあったらどうするんだよ!」
「ご、ごめんなさい!だって…ジェローム君、知ってたらわたしとの試合、手加減するでしょ?そんなのヤダったの!」
ジェローム君が優しくわたしを包み込む…
「ありがとう…名前考えなきゃね」
▶
新年、わたしたちはローゼル近衛騎士隊に入隊。二人で支給されたばかりの鎧を身に纏う。
「ねぇジェローム君、これで合ってるかな?」
「うん、大丈夫だと思うけど…………シェダルさんカッコいいよ、似合ってる」
「ありがとう!ジェローム君こそカッコいい♪」
「にしても…鎧って、けっこう重いな」
「確かに…でも重量だけじゃなくて、別の意味でも重みがあるよね」
「これをずっと着てるお義父さんってスゴイよね」
「わたしにとっては優しくて、娘に甘〜い、かわいいお父さんなんだけど、知らない所でちゃんと鍛錬してるんだよね…じゃなきゃ長年、隊長なんて務まらないよね」
「今年もお義父さんが隊長だし、私たちもしっかり鍛えて、足手まといにならないようにしようよ」
そう言って意気揚々と森の獣道へとやって来た。
「き、今日は…とりあえずゲーナの森にしない?」
「うん、そーだね………」
瘴気の森からは異様な空気が漂ってくる。入口の前に立ってるだけで『ヤバい』って分かる…わたし達じゃ、まだムリ!!!
「何言ってるの!二人とも行くよ!!」
いつの間にか直ぐ後ろに父が…。父に背を押され瘴気の森へ足を踏み入れた。
瘴気の森の敵を前にしても全く怯む様子もない父。普段見てる父の姿とはまるで別人。…スゴい、これが隊長を務める父の姿なんだ。いつかわたし達も、父と母のようになれるのかしら…。
「ジェローム君…少しずつ成長してこ」
「だね…焦らなくてもいいよね」
「でも、ジェローム君の初戦の相手、お父さんだよ。少しは成長しとかないと…ねぇ?」
「はははっ………」
なんて言った翌日。
「シェダルちゃん、ジェローム君、ローゼル近衛騎士隊を…陛下を頼んだよ…」
「頼まれたって困るよ!ヤダ…これから教えてもらうこと、いっぱいあるのに!!」
着任式の夜、騎士隊長の父が静かにガノスへと旅立った。すべてをやり遂げたような満足気な顔をして…そしていつもの優しい笑顔で…。
いつまでも落ち込んでられない!父も母も、一朝一夕に強くなったんじゃない。だから、きっと大丈夫。強くなれる!だってジェローム君と一緒なんだから!!
「ジェローム君、瘴気の森に行くよ!」
「よし、行こう!」