12th◇兵団長と騎兵
山岳リーグ戦最終日。わたしは全勝し来期も兵団長を任せられる事になった。兵団顧問の父に優勝の報告をしようと声をかける。
「父さん!優勝したよ♪」
「リズおめでとう!それはそうと大事な話がある。少しいいか?」
何?なんか嫌な予感がする…
「……俺はもう長くない。リズは兵団長としては立派になったが、家長としては心配が尽きない…。口うるさく思うだろうが…リットン家のためにも結婚して欲しい…」
「大丈夫よ…心配しないで。断絶なんてさせないから…だから、そんな弱気なこと言わないで……」
ルクバ君と距離を置くようになってから、騎士隊のアンヘル君と一緒によく探索へ行くようになった。彼も武術職だから、共感できる部分が多いし話も合う。何より、彼と一緒にいる時間が心地良い。でももし彼と結婚…ってなると、彼は騎士隊を辞めなきゃいけない。だから迷ってる、彼との関係を進めていいものか、そして未来を考えていいものなのか…。
「ねぇリズちゃん、ちょっと付いて来てもらえる?」
「アンヘル君、いいわよ。で、どこ行くの?ゲーナの森?」
彼は『ははっ』って笑って困ったような顔したの。彼のうしろを付いて噴水通りから街門広場、そして幸運の塔…(この方向、やっぱり森へ行くのね)…突然アンヘル君の足が止まった。振り返ったアンヘル君は凄く緊張してる…ような………え?ここって……
「リズちゃんが好きなんだ…僕と付き合って欲しい」
「…あ、あの…えっと……わたし山岳兵隊長なの!だから…あのぉぉぉ…ね?」
「僕はリズちゃんの為なら騎士隊を辞める。もちろんその覚悟でここに来たんだ」
「い、いい…の?だって!だってせっかく騎士隊で頑張ってるのに!そんなのもったいないよ!」
「もったいない…か。僕はリズちゃんを誰かに取られる方がもったいないんだけど?僕じゃぁダメ?」
「そんなことない!!ダメなんかじゃない!…………わかりました……よ、よろしく…おねがいします」
「やった!こちらこそよろしくお願いします!」
こんなにあっさり恋人になれるの?なんだか急に恥ずかしくなってきた…
「ね、ねぇアンヘル君、…えぇぇっと………そうだ!今から練習試合しない?」
うわぁ…何言ってんの。可愛げない!つい、いつもの調子で練習試合に誘っちゃった…わたしのバカっ!
「もちろん!それでこそ兵団長!どこにだってお供しますよ♪」
やっと恋人と呼べる人が出来た。まぁ、結婚はまだまだ先の話だけど、取り敢えず父さんにも報告しなきゃね!きっと喜んでくれるはず♪
報告した翌日の夜、父はガノスへと旅立った。とても安らかな顔だった。だけどわたしは…家長として何も安心させてあげられなかった。
『父さん…ごめんなさい。孫の顔も見せてあげられなかったね。でも、リットン家は断絶させない、ちゃんとわたしが守るから!……父さん、ガノスから見てて下さい!』
葬儀を終えてすぐ、ルクバ君からお悔やみを頂いた。『ルクバ君のせいで親孝行出来なかったじゃない!』そう言って泣き縋りたい気持ちを抑え込み、アンヘル君の元へ走った。
「アンヘル君!」
彼の胸に飛び込んだわたしをしっかりと受け止めてくれる。
「リズちゃん、辛かったね…。僕は何も出来ないけど、何時だってリズちゃんのそばにいる、だから安心して」
ギュッと抱き締めてくれるアンヘル君。ずっと堪えていた涙が堰を切ったようにボロボロと流れ落ちる。あなたの前では、わたしはただの『リズ』になれる…肩の荷が下ろせる気がする…。もっと早くあなたと出会えてたら…もっと親孝行出来たかもしれないね。
「リズちゃん…少し落ち着いた?目、真っ赤だね」
そう言ってわたしの涙を拭ってくれる手に自分の手を重ねた。絡み合う視線を遮るようにそっと目を閉じた…。重なる唇にアンヘル君の温もりを感じながら、全身も包み込まれるような安心感…手放したくない!心の底からそう思ったの。