10th◇再会
『リュラエちゃん、一緒に魔獣の森に行かない?』
『もちろん♪一緒に行こ!』
アントニオっ!
手を伸ばせば届くほどの距離。なのに触れることは出来なくて、アタシの腕は空を切る。
………いつもここで目が覚める。
アントニオがアタシのそばからいなくなって、まだたったの10日。それなのに淋しくて淋しくて堪らない。
「お母さん?さっきからボーッとして、どうかした?」
娘が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「最近…昔のことをよく思い出すの。アントニオもアタシもまだ若かった頃のことを…ね」
アントニオと出合って、あなたに憧れて、そしてそれが恋だと気づいて、悩んだ……。色々あったよね?アタシが別れを切り出したり、アントニオが嫉妬したり…。たくさん泣いたし、たくさん笑った。アントニオとの思い出が鮮やかに蘇る。会いたいよ…だから早く迎えに来て!
「よっ!リュラエ、どうかしたのか?」
「あ、アポロ!別にどうもしないわよ………ってそっちこそ、なんかあった?」
「まぁ、多分そっちと同じ…」
「はぁ?フリアン君まだ3歳でしょ?何言ってんのよ!」
「こればっかりは…な。お前こそ、何急いでんだ?そんなに旦那が恋しいのかよ…」
アポロとの付き合いはアントニオより長い。憎まれ口を叩き合うのは信頼してるから。そんなアポロが……
「アポロ…アポロもアタシを置いて逝くの?アントニオがいなくなって、アポロもいなくなるの?……ヤダよ………アポロのバカぁぁぁぁぁ!!!」
星の日…一日中真っ暗なこの日の夜、アタシの心も真っ暗になった。
『アポロニウス・ウッドホール』は愛する家族の側を離れ、ひとり…静かにガノスへと旅立った。
翌朝、アポロの葬儀を終えると急に身体が重くなった気がした。
「お母さん…具合はどう?」
娘や孫たちが次々に訪れる。そんなに心配しなくても大丈夫よ!アタシは大丈夫!きっと今夜辺り…アントニオに会える…そんな気がするの。だからそんなに悲しそうな顔しないで!
『リュラエちゃん、迎えに来たよ………』
久しぶりに聞いたアントニオの声。差し出された手に重ねようとした手を思わず引っ込めた。またいつものように空を切るんじゃないかと不安が過る。
『大丈夫、おいで』
アントニオがアタシの手を掴む。しっかりと繋がれた手は、アタシのよく知る手と何も変わらなかった。暖かくって、大きくって、ちょっとゴツゴツしてて…
『待ってたよ、さぁ行こう!アポロ君も待ってる』
『ええーっ、アポロもいるの?久しぶりに会えたのに、アントニオに思いっ切り甘えたかった…なぁ』
『そんなこと言って、本当は嬉しいんでしょ?』
ふふっ♪そう、嬉しいの!アントニオにもアポロにも再会出来た。まぁアポロとは再会ってほど離れてなかったけどね。
『アントニオ、これからもよろしくね』
飛び付いたアタシをギュッと抱きしめてくれる。あぁ、アントニオの匂いだ!それと柔らかいこの髪の感触…間違いない、アタシの大好きなアントニオだ!やっと会えた…。会えなかった時間を埋めるようにアントニオを全身で感じ、唇を重ねた。
これまでとは違う時間軸上でアタシたちは生きていく。『生きていく』って表現が合ってるのかは分からないけど、何だっていいわ!だってこれからもずっとアントニオと一緒なんだから♪