10th◇親友
▶アントニオとアポロニウスのお話。(アポロニウス視点)
「探索行くよ~」
俺がローゼル近衛騎士隊に志願した年、幼馴染みのリュラエの旦那も同じく志願。旦那の強化ついでに、いつも探索に誘われる。
……誘われる?違うな、強制参加だ。
「リュラエ、アントニオさんと二人で行けよ。俺がいても邪魔だろ?」
「(アポロ君、そんなこと言わずに一緒来てよ。リュラエちゃんは…見てるだけなんだからさ。な、頼む!)」
そう…リュラエは連れて行くクセに、ダンジョンの中では傍観者。余程ヤバい状況にならないと助けてくれない。お陰で俺もアントニオさんもボロボロで出てくることになる。
この国のウォーリアークイーンであるリュラエ。今は農場管理官として働いてるが、元々は山岳クルマン家の跡継ぎだ。幼いころから龍騎士で山岳兵団長である父親に戦闘を叩き込まれている。まぁ…武術に関してはリュラエに逆らわない方がいい。
「子供の頃はかわいかったんだけどな」
「今でもかわいいでしょ」
「鬼だろ!」
「アポロ、死ぬわよ!」
少し目を離した隙に敵が拳を振り上げていた。殺られる!…しかし衝撃はやってこなかった。
「アポロ!大丈夫?」
「あ、ああ…。なんともない」
「もう!ちゃんと集中しないと、本当に死ぬわよ!」
いよいよ選抜トーナメントも最終戦。決勝戦の相手は予想通りリュラエの旦那、アントニオさんだ。
「アポロ…今日は応援出来ないけど、頑張って!」
「当たり前だ!リュラエはアントニオさんの心配してろ」
勝っても負けても入隊出来るが、俺だって負けるつもりは更々ない!
「お互い手加減ナシですよ」
「ああ、挑むところだ!」
一緒に探索には行くが、剣を交えるのは初めてだ。選抜トーナメントだが、親友と本気で公式戦を戦うのは…悪くない。負けないと思っていたが、アントニオさんの方が一枚上手だった。
「アントニオさん、おめでとうございます!これから打ち上げでもしませんか?」
「いいね、行こうか」
すっかり酔いも回り、眠気に抗えなくなってきた…
「そろそろ帰りましょうか」
「アポロ君…君はリュラエちゃんが好きだったんだろ?」
「えっ?ち、違いますよ!あいつはただの幼馴染み、妹みたいなモンで…」
「妹?同級生なのに?」
「アントニオさん酔ってますね、帰りましょう」
「君たち二人の間には…夫婦みたいな空気を感じるんだけど?」
「同級生ですけど、俺は1日生まれ、リュラエは29日生まれ。俺が初めてリュラエと会ったとき、あいつは生まれて間もない赤ちゃんだったんです。妹ですよ!じゃなくても家族…リュラエはアントニオさんにベタ惚れですよ!」
「そう…かな」
「俺は妻を…プリムローズを愛してます。リュラエをそんな風に思ったことはありません。誓います!」
リュラエは妹?いや弟かもしれないな。どっちにしろ家族なんだ、恋愛感情なんかない。リュラエと恋人?そんなこと全く想像すら出来ない。周りからは恋人みたいだって言われたりしたけど、そんな関係じゃないんだ。
「アントニオさん、リュラエだって俺のことそんな風に考えてませんよ。リュラエはあなたのために山を降りたんです。それが答えでしょ?」
「あ、いた!何、二人で呑んでたの?ズルい!誘ってくれたらいいのに…。ねぇプリムローズ」
リュラエとプリムローズが迎えに来た。リュラエのアントニオさんを見る目は、俺を見る目と全然違う。どんだけ愛されてるか一目瞭然じゃないか!