sothis's derivative work

このブログは《World Neverland~エルネア王国の日々~》のゲームプレイを元にした妄想込みの二次創作物語(SS)を掲載しております。(投稿∶不定期)

milly◇年下の彼

「ねぇクローライト、年下の恋人って…どう?」

突然そう聞いてきた同級生のプルネラは、子供の頃からの長い付き合い。アタシにもプルネラにも夢があり、その夢を叶えるために成人直後から奔走し、あっという間に丸二年が過ぎ去った。

成人して三年目、そろそろ結婚が気になる歳になった。周りの同級生は結婚を見据えた相手を見つけている。まだ恋人のいないアタシとプルネラは出遅れた感が否めなかった…。そんな中、ようやくアタシにも恋人?と呼べる人が出来た。

「どう?って言われても…まだ付き合い始めたばかりだし…。うーん、年下だけど…慣れてるって言うか、アタシの方がドキドキさせられっぱなし?かな…」

「あー、はいはい。幸せそうでなによりだね」

 

アタシの恋人ドナテルロは2歳年下。ついこの前までナトルに通う子供だった。弟の友達で、よく家にも遊びに来てたし、一緒になって遊んでたんだ。だからドナが成人式直後に『幸運の塔』に誘いに来た時は…そりゃあ驚いた。だって…そんな対象じゃなかったもん。弟みたいで、弟みたいな、まぁ…弟としか…ねぇ。

 

「何度も断ったよね?どうしてOKしたの?どういう心境の変化?」

「そこは…いくら親友でも教えられない。アタシとドナだけの秘密よ!……って、やけに喰い付くわね?どうかしたの?」

「べ、べつに…何もないわよ。ちょっと聞いてみただけ!」

「怪しい……。もしかして年下に告られたとか?」

「そ、そ、そんなんじゃない!」

「白状しなさい!何があったの?」

「あー、本当に何もないからっ!忘れて!」

 

この数日後、衝撃のシーンを目撃するのよね…

 

 

 

 

「クローライト、デート行こう」

今日はどこに連れて行ってくれるのかな?実際どこでもいいの。ドナと恋人として一緒の時間を過ごせることが嬉しい。

「ねぇ、明日もデートしようよ」

「もちろん♪」

他愛もない話をして、明日の約束をする。それだけで充分幸せなの。ドナもアタシと同じ気持ちだって思ってた…。

「クローライト、オレといるの…楽しくない?」

「え?すごく楽しいよ!」

「でも…全然クローライトから誘ってくれないし、いつもオレが決めたこと断らないしさ…なんか、恋人って言うより姉弟みたいな…弟扱いされてる気がするんだ。オレのこと……まだ子供だと思ってる?」

「まぁ…初めは弟みたいな感覚だったけど、今は違うよ!子供だなんて思ってない!」

「じゃあ、キスしてもいいよね?」

ドナの顔が近づいてくる…思わず顔を背けてしまった。

「ご、ごめんドナ!違うの!その…イヤとかじゃなくて…えっと……」

「もう…いい。明日、街門広場で待ってるから…」

 

あぁぁぁ、最悪!ドナを傷つけちゃった。明日、ちゃんと話さなきゃ。

明日?ダメ…きっと今じゃなきゃダメ!不意にそう思って追いかけた。ドナ待って!

 

 

「ドナっ!……少し話せる?」

「……何?」

うわぁ、完全に怒ってる…

「……………ドナテルロが大好き!好き…なんだよ!年上だし、恥ずかしくて今まで言えなかったんだけど…、アタシね、男の人とどう接したらいいか分かんないの!手を繋いだり、キ…キス?とか?恥ずかし過ぎて死んじゃいそうなの!だから!ドナを子供扱いしてる訳じゃなくて、アタシの方がよっぽど子供なの!!あーもう…何言ってんだろ…とにかく、さっきはゴメン!」

恥ずかしくて恥ずかしくて、ドナの顔すらまともに見れなかった…

「ふっ…あはははは!クローライト、めっちゃかわいい!マジでキスしたい!」

「なっ、何よ!!年上をからかわないでっ!」

「あのさ、年上とか年下とか、恋人なんだからそんなのどうでもよくない?そうだ!今度歳のこと言ったらキス一回ね♪」

 

はぁぁぁ……ドナに振り回されっぱなしだよ。年下のくせに駆け引き上手くない?

「今、『年下のくせに』って聞こえたけど?」

「き…聞こえ…た?」

ドナがしたり顔で上からアタシを見下ろす。慌てて口を覆おうとした手をドナに掴まれる…。いつの間にかアタシより大きくなって力だって敵わなくなった。可愛かったドナが、すっかりカッコいい男性になって…ドナに見つめられるだけでアタシの心臓は壊れそうなの。

ほんの一瞬…唇が触れた。触れた…よね?

「クローライトのかわいい顔が見れたから、今日はこれで勘弁してあげる。じゃ、また明日ね」

以外…。ドナの顔、真っ赤だった…。ドナだって一生懸命アタシと恋愛してくれてる…そう思っていいのかな?

 

 

なんだか嬉しくなってウキウキしながら幸運の塔を通って…

……………っっっ!!

プルネラとゼオライトだよね?えっ…今、目の前でハート飛ばしてるのはアタシの親友とアタシの弟で間違いないよね?

幸運の塔を出たところで親友を取っ捕まえる。

「プルネラ!い、今の…何?」

「あ……そういうことになりました。よろしくクローライトお姉ちゃん!」

「はぁぁ?えっと…ごめん……少し整理させて」

 

f:id:sothis:20210523204510j:image

アタシとプルネラは親友で同級生。

アタシとゼオライト姉弟

アタシとドナテルロは恋人。

ゼオライトとドナテルロは同級生でたぶん親友。

で…

プルネラとゼオライトが恋人?

 

何がどうなってこうなった?

「…………さてプルネラ、酒場に行くわよ!今日は帰さないよ。あんた達がこうなった理由、全部話してもらうからね!」

10th◇兵隊長アリオト

 

「シャルル君が好きなの…」

「アリオトさんだって知ってるよね?僕たちはお互い後継ぎ同士…それは許されないって」

「ごめんね、困らせるつもりはないの!本当にごめん…」

 

シャルル君は山岳ナセリ家の後継ぎで、私のひとつ年下。幼い頃から一緒に遊んできた、いわゆる幼馴染み。そして私は…山岳クルマン家の次女、だけど今は山岳兵隊長。本来なら姉が後を継ぐはずだったのに、姉は恋人の夢を叶えるため、私に継承権を委ねて山を降りた。

あの時は姉を応援したかったし、シャルル君にこんな感情を抱くことになるなんて思いもしなかった。だから後継ぎになったこと、後悔なんてしてない…だけど…もし……あの時…姉の申し出を断っていたら………私たちはどうなってたのかな…

 

 

「アリオト?元気ないな、どうかしたのか?」

「あ、ロベルト君。別に…どうもしない……」

「じゃ、釣りにでも行かないか?俺がアリオトを元気にしてやる!」

はぁぁ………ロベルト君にまで心配されてちゃダメよね。

 

ロベルト君はナトルに通ってる頃から弟のようにかわいがってきた、ふたつ年下の男の子。今年成人して、なんか…こう…色気があるって言うか…年下のくせに私より大人びていて、シャルル君とは見た目も性格も全然タイプが違う。

 

 

 

10日ほど前、お父さんが引退し私は山岳兵隊長となった。そろそろ結婚の二文字と真剣に向き合わなきゃいけない。なのに…結婚どころか恋人すらいない。兵隊長なんて…肩書だけで何もかもまだまだ未熟者。やっぱりお姉ちゃんが継いだほうが良かったんじゃない?私は武術も…恋愛も…お姉ちゃんには敵わないよ……。

 

 

「アリオトおはよう。釣りに行こうよ」

「おはよ。ロベルト君って、いつも釣りに誘うよね?そんなに釣り好きなの?」

「まぁ…そうだな。嫌いじゃない」

で、私を誘いに来るロベルト君の後ろには…女の子が列をなしてロベルト君を追いかけて来る。

「私じゃなくて、あの子たちを誘ったら?」

「俺はアリオトと釣りがしたいんだ!」

私の手を引いて、女の子のたちの間をズンズン進むロベルト君。『オバサンのくせに』って声が聞こえてきそう…じゃなくて!私はロベルト君のこと、そんな対象として見れないよ。

 

 

とうとうシャルル君に恋人が出来た。本当にもう忘れなきゃ!

そう思ってるのに…デートしてるとこなんて見たくないのに…それでも私はシャルル君を追いかけちゃう。今日は水源の滝でデートなのね…

 

「アリオト!ちょっと来い」

突然目の前に現れたロベルト君に手を掴まれ、強引に引っ張られる。

「痛い!離してっ!」

聞こえてないの?ロベルト君…怖いよ?どうしたの?

 

「そんなにアイツが好きなのか?どうにもならないって分かってるだろ?」

「ロベルト君には関係ない!放っておいて!!」

「関係あるんだよ!ちゃんと俺を見ろよ…俺は………ずっとアリオトのことが好きなんだ!そんな顔したアリオトなんて見たくない。俺がアリオトを笑顔にする!だから!!!」

「ムリ!だって…だってロベルト君、人気者だし…私の方が二つも年上だし…私なんかロベルト君に釣り合わない!」

「は?釣り合うとか釣り合わないとか関係ないだろ!好きか嫌いか聞いてんだけど?」

「好き?いやいやいや………」

「嫌い………か?」

「待って!展開が急すぎて頭が追いつかない…ごめん、好きだとは言えない……今までそんな風に考えたことなかったし…」

「なら、考えろよ!一日やる。明日…返事もらいに来るから」

 

もう、訳わかんない!何なの?ロベルト君が私を?

…………ロベルト君のこと…好き?嫌い?……好きかどうかはよく分からないけど、嫌い…ではない。でもシャルル君に対する気持ちとは…明らかに違う…よね…。

 

 

 

「で?答えは?」

年下のくせに、思いっ切り上から目線。ロベルト君って私のこと年上だと思ってないよね!何か癪に障るけど、それがロベルト君らしくて…だからこっちも飾る必要なんてなくて…

「………よ……よろしく………お願いしま………す」

「……………あ、えっと……家まで送るよ」

私の手を引いて山道を登って行く。後ろからはロベルト親衛隊が付いて来てる…あぁ、私…早まったかな?

「アリオト、明日デートな。それと…『お前ら付いて来んな!』」

今…山岳の家3には私とロベルト君、それとロベルト君目当ての女の子が3人。こんな状況下で構うことなくキスしてくるロベルト君。私これからどうなるのかしら…

 

ロベルト君はグイグイ私を引っ張ってくれて、あっという間にクルマン家に婿入りしてくれた。二児の父になり、山岳兵としてずっと支えてくれた。

 

髪も白くなり、私は長男ヴィタリに兵隊長を引き継ぎ、ようやく引退した。

兵隊長、兵団長としてずっと走ってきた。急に全てを下ろしたら、ぽっかり穴が空いたみたいで…

「アリオト、釣りに行くよ!」

「相変わらず釣りが好きねぇ」

「まだ分かんないの?釣りなんてどうでもいい…アリオトと一緒にいたいだけ…そろそろ俺だけのアリオトになってよ」

「うん…もちろん♪」

私の心はロベルト君が埋めてくれる。ずっとそうだったな…どんなときでも気付けば隣にいてくれた。だからこれからは私がロベルト君の隣にいる…ううん、いさせてね!

 

10th◇再会

『リュラエちゃん、一緒に魔獣の森に行かない?』

『もちろん♪一緒に行こ!』

 

アントニオっ!

手を伸ばせば届くほどの距離。なのに触れることは出来なくて、アタシの腕は空を切る。

………いつもここで目が覚める。

アントニオがアタシのそばからいなくなって、まだたったの10日。それなのに淋しくて淋しくて堪らない。

 

 

 

「お母さん?さっきからボーッとして、どうかした?」

娘が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「最近…昔のことをよく思い出すの。アントニオもアタシもまだ若かった頃のことを…ね」

 

アントニオと出合って、あなたに憧れて、そしてそれが恋だと気づいて、悩んだ……。色々あったよね?アタシが別れを切り出したり、アントニオが嫉妬したり…。たくさん泣いたし、たくさん笑った。アントニオとの思い出が鮮やかに蘇る。会いたいよ…だから早く迎えに来て!

 

 

 

「よっ!リュラエ、どうかしたのか?」

「あ、アポロ!別にどうもしないわよ………ってそっちこそ、なんかあった?」

「まぁ、多分そっちと同じ…」

「はぁ?フリアン君まだ3歳でしょ?何言ってんのよ!」

「こればっかりは…な。お前こそ、何急いでんだ?そんなに旦那が恋しいのかよ…」

アポロとの付き合いはアントニオより長い。憎まれ口を叩き合うのは信頼してるから。そんなアポロが……

 

「アポロ…アポロもアタシを置いて逝くの?アントニオがいなくなって、アポロもいなくなるの?……ヤダよ………アポロのバカぁぁぁぁぁ!!!」

星の日…一日中真っ暗なこの日の夜、アタシの心も真っ暗になった。

『アポロニウス・ウッドホール』は愛する家族の側を離れ、ひとり…静かにガノスへと旅立った。

 

翌朝、アポロの葬儀を終えると急に身体が重くなった気がした。

「お母さん…具合はどう?」

娘や孫たちが次々に訪れる。そんなに心配しなくても大丈夫よ!アタシは大丈夫!きっと今夜辺り…アントニオに会える…そんな気がするの。だからそんなに悲しそうな顔しないで!

 

 

 

『リュラエちゃん、迎えに来たよ………』

久しぶりに聞いたアントニオの声。差し出された手に重ねようとした手を思わず引っ込めた。またいつものように空を切るんじゃないかと不安が過る。

『大丈夫、おいで』

アントニオがアタシの手を掴む。しっかりと繋がれた手は、アタシのよく知る手と何も変わらなかった。暖かくって、大きくって、ちょっとゴツゴツしてて…

 

『待ってたよ、さぁ行こう!アポロ君も待ってる』

『ええーっ、アポロもいるの?久しぶりに会えたのに、アントニオに思いっ切り甘えたかった…なぁ』

『そんなこと言って、本当は嬉しいんでしょ?』

ふふっ♪そう、嬉しいの!アントニオにもアポロにも再会出来た。まぁアポロとは再会ってほど離れてなかったけどね。

『アントニオ、これからもよろしくね』

飛び付いたアタシをギュッと抱きしめてくれる。あぁ、アントニオの匂いだ!それと柔らかいこの髪の感触…間違いない、アタシの大好きなアントニオだ!やっと会えた…。会えなかった時間を埋めるようにアントニオを全身で感じ、唇を重ねた。

 

これまでとは違う時間軸上でアタシたちは生きていく。『生きていく』って表現が合ってるのかは分からないけど、何だっていいわ!だってこれからもずっとアントニオと一緒なんだから♪

 

11th◇鎧の重み

「ジェローム君!」

「な、なに?なんでそんなにニコニコなの?」

「ふふっ…だって嬉しいから!」

キョロキョロと周りに誰もいない事を確認して、畑仕事をしていたジェローム君に飛びついた。

「うわっ!もう…シェダルさんの服が汚れちゃうよ?」

「わたしもエントリーしてきた!」

「えっ!トーナメントに?シェダルさんも⁉」

「ダメ?」

「そんなことない!シェダルさん強いから優勝出来るよ!…私も勝ち上がれればいいけど、そんなに甘くないだろうな」

「ジェローム君だって強いじゃない。一緒に入隊しようよ!」

「そうだね。負けること考えちゃダメだよね!うん、一緒に入隊しよう!」

「うん♪」

 

わたしの両親は龍騎士の称号を持つ。だからなのか分からないけど、いずれジェローム君も龍騎士になるって…そう思うの。だから騎士隊の選抜トーナメントにエントリーしてくれたのが凄く嬉しかった。

 

「わたしと当たるのは決勝だよ!それまでに絶対負けちゃダメだからね!」

「シェダルさんこそ、ちゃんと決勝まで勝ち上がってよ」

わたしには年明けに二人で鎧を着てる姿しか見えてなかった。そしてジェローム君はいつか龍騎士になるんだ!

 

 

 

「ジェローム、シェダル、探索行くよー」

「「はーい!」」

騎士隊に志願したことが母に知れてから、母は嬉しそうにわたしたちを探索に連れ出す。そんなわたし達を父は楽しそうに『いってらっしゃい、頑張ってね!』と送り出す。

母は今でこそ龍騎士だけど、わたしが幼かった頃は農場管理官だった。だから、武術に長けてるだなんて知らなかったのよね…

「うん、ジェロームもシェダルもよく鍛えてる。正式に入隊したら瘴気の森で鍛えてあげるから覚悟しておきなさいね」

「瘴気の森⁉…ジェ、ジェローム君…頑張ってぇ」

「何言ってんの!シェダルさんこそ…頑張れー」

 

 

 

 

選抜トーナメント決勝。わたし達は対峙した…

ジェローム君に優勝して欲しい!だけど手を抜くのは違う…だから正々堂々、勝負よ!

「手加減なしだからね!」

「臨むところだ!」

 

試合終了。わたし達は騎兵候補生となった。

 

選抜トーナメント決勝のこの日は、わたし達にとって大切な日。もう夕刻だけど、ここからはジェローム君との時間を満喫するよ!ジェローム君のお誕生日をお祝いして、結婚記念日のデート。そして…

「ジェローム君に報告があるの。あのね…赤ちゃんできたんだ!」

「えっ?いつ?………いつ生まれるの?」

「えっと…13日?」

「そんな大事なこと…どうして直ぐに言わないのっ!何かあったらどうするんだよ!」

「ご、ごめんなさい!だって…ジェローム君、知ってたらわたしとの試合、手加減するでしょ?そんなのヤダったの!」

ジェローム君が優しくわたしを包み込む…

「ありがとう…名前考えなきゃね」

 

 

 

 

新年、わたしたちはローゼル近衛騎士隊に入隊。二人で支給されたばかりの鎧を身に纏う。

「ねぇジェローム君、これで合ってるかな?」

「うん、大丈夫だと思うけど…………シェダルさんカッコいいよ、似合ってる」

「ありがとう!ジェローム君こそカッコいい♪」

「にしても…鎧って、けっこう重いな」

「確かに…でも重量だけじゃなくて、別の意味でも重みがあるよね」

「これをずっと着てるお義父さんってスゴイよね」

「わたしにとっては優しくて、娘に甘〜い、かわいいお父さんなんだけど、知らない所でちゃんと鍛錬してるんだよね…じゃなきゃ長年、隊長なんて務まらないよね」

「今年もお義父さんが隊長だし、私たちもしっかり鍛えて、足手まといにならないようにしようよ」

 

そう言って意気揚々と森の獣道へとやって来た。

「き、今日は…とりあえずゲーナの森にしない?」

「うん、そーだね………」

瘴気の森からは異様な空気が漂ってくる。入口の前に立ってるだけで『ヤバい』って分かる…わたし達じゃ、まだムリ!!!

 

「何言ってるの!二人とも行くよ!!」

いつの間にか直ぐ後ろに父が…。父に背を押され瘴気の森へ足を踏み入れた。

瘴気の森の敵を前にしても全く怯む様子もない父。普段見てる父の姿とはまるで別人。…スゴい、これが隊長を務める父の姿なんだ。いつかわたし達も、父と母のようになれるのかしら…。

 

「ジェローム君…少しずつ成長してこ」

「だね…焦らなくてもいいよね」

「でも、ジェローム君の初戦の相手、お父さんだよ。少しは成長しとかないと…ねぇ?」

「はははっ………」

 

なんて言った翌日。

「シェダルちゃん、ジェローム君、ローゼル近衛騎士隊を…陛下を頼んだよ…」

「頼まれたって困るよ!ヤダ…これから教えてもらうこと、いっぱいあるのに!!」

着任式の夜、騎士隊長の父が静かにガノスへと旅立った。すべてをやり遂げたような満足気な顔をして…そしていつもの優しい笑顔で…。

 

 

 

いつまでも落ち込んでられない!父も母も、一朝一夕に強くなったんじゃない。だから、きっと大丈夫。強くなれる!だってジェローム君と一緒なんだから!!

「ジェローム君、瘴気の森に行くよ!」

「よし、行こう!」

milly◇恋の行方

▶王太女ヴァネッサと山岳長子アズライトの恋。(ヴァネッサ視点)

 

 

その日…アタシは朝から緊張していた。

あと数日で成人するって頃、やっぱりアタシの気持ちを知って欲しい…そう思うようになった。

ずっと否定し続けた想いだけど、アタシ自身が受け入れて、卒業しなきゃ前に進めないよね。だから…せめて言えるうちに言っておきたい…子供の言葉だと…たとえ本気にされなくても構わない!そう思って何度も何度も頭の中でシミュレーションしたのに結局言えないまま数日が過ぎ、今日に至った。

もう時間がない…明日には成人する。成人したらこの気持ちを伝えることすら出来なくなる…だから今日しかない!今しかないの!

自分を奮い立たせ、蝶に願う…。

 

 

 

「ねぇ。…………ア……アズライトは…好きな人……い…いる?」

いて欲しくない!だけど…いて欲しい!矛盾する心でアタシの頭は混乱していた。

「い、いや…別にそういう人は…いないけど」

ホッとする自分を押さえ込むとフツフツと怒りが込み上げる。

「もう8歳でしょ?何してるの!跡継ぎなんだからさっさと結婚してご両親を安心させてあげなきゃダメでしょ!…………で…でも……もし…。

(ふぅーっ)…もし誰もいないならアタシがアズライトのお嫁さんになってあげてもいいわよ!」

「………は?ヴァネッサは王太女だろ、ムリに決まってんじゃん。まぁ…そのうち結婚はするさ!君に心配してもらわなくても大丈夫。俺って意外とモテるんだ」

 

知ってるわよ!アズライトはモテ王でエナの子でいつも女の人に追い回されてる。じゃぁ…なんで恋人作らないの?あなたがさっさと結婚してくれたら…アタシだって諦められるのに。

 

 

 

アタシとアズライトはお互い跡継ぎ。だから諦めるしかないんだって…わかってるわよ!わかってるけど、ずっと…ずっとアズライトのことが好きなの…。どんなに足掻いてもアタシ達は結婚どころか恋人にだってなれない、告白さえ許されない。そんなのって…ある?せめてアタシのこの気持ちを伝えることが出来たら…『好き』って伝えられたら…そう思って目一杯勇気を振り絞って声をかけたのに、結局『好き』って言葉を口にする事が出来なかった。あんなに練習したのに!

 

 

 

無事に成人式を終え、大人になって一週間、『殿下』と呼ばれるのにも慣れてきた。そしてやたらと男の人から声を掛けられるようになった。紹介された?どうせ紹介したのは母さんでしょ?

女王陛下である母は、結婚相手を早めに決めて国民を安心させることも大切だって、いつも言ってる。

でも…誰でもいい訳じゃないでしょ?やっぱり好きな人と結婚したいわよ。だから何人から告白されても……アズライトより好きになれそうな人なんて…………そう簡単には見つからない。

「殿下、さっき告白されてただろ?」

「ア、アズライト!?……見てたの?最っ低!」

「この国の美人王太女さまだもんな、そりゃモテるよな!」

「モテたって嬉しくない!アズライトにだってわかるでしょ?地位欲しさに言い寄ってくる人だって沢山いるわ…だからアタシが選ぶの!アタシが選んだ人と結婚するんだから!」

 

アタシは………アズライトと。…そんなこと許されない。もう会わないほうがいいに決まってるけど、アズライトと軽口を言い合う関係は続けたい。繋がっていたい…そう思っちゃ…ダメ?

 

「アズライトこそモテるくせに恋人作らないじゃない?好きな人…いないの?」

「……好きなヤツならいるけど、そいつとの未来は無いな」

「えっ…お、お、男?アズライトってそんな趣味あったの!?!?!?」

「バカっ!一応女だよ!」

わっ、アズライトが真っ赤になってる。いつもシニカルな人だから、焦ってる姿なんて初めて見た!…か、かわいい!

「じゃぁ告白すればいいじゃん」

「だから!そいつとの未来は…今のままじゃ……無いんだって!」

 

アズライトにも好きな人…出来たんだ…。そうよね、いい加減結婚しないと…跡継ぎなんだから!でも、なんで結婚出来ない人を好きになったの?さっさと諦めて次、探しなさい!そして告白して恋人になって…………結…婚…してよ………アタシの中から早く消えて!

 

 

 

大人になった今、アズライトへの想いは日に日に強くなっていく…諦めるしかない……そう思うけど、やっぱり会わずにはいられない。アズライトを釣りに誘って他愛もない話をする。

うん、これでいいの…こんな軽い関係でいいから………ずっとアズライトの側にいたい!

 

「殿下、俺さ…ジェンキンス家は継がないことにした」

「え……………っ?アズライト?どうして?アズライトなら山岳兵団長にだってなれるでしょ!龍騎士にだってなれるくらい強いじゃない!アズライトはいずれこの国を担っていく重要な人だよ?将来…アタシが女王になったとき山岳代表としてアタシの側で支えてくれるんじゃないの?」

「強いだけじゃダメなんだよ…弟の方が家長に向いてる、相応しいんだ。アイツなら立派に務めてくれる」

 

アタシが女王になるときには山岳兵団長として側にいてくれるんだって…なんの疑いもなく、当然のように思っていた。えっ?アズライトはジェンキンス家を継がない?………どういうこと……なの????

 

「でさ…他には?俺に何か言うことないの?」

「他に?」

「あー、もう!一晩ゆっくり考えな。…じゃあ、また明日な」

 

 

 

 

「あのさ…二人でどっか行かない?」

翌朝、アズライトを幸運の塔に誘った。一晩も要らなかった、あの後すぐに気づいたの…告白出来るんだって。きっとアズライトは『アタシが選ぶ』って言ったから待ってくれたんだよね?違う?

 

「ずっと…好きなの……アズライトが大好きなの!」

やっと『好き』って言えた。もう十分…もう…これで………振られても悔いはない!!

「知ってる。ごめんな、気付かないフリしてた…殿下を傷つけたくなかった。………殿下、俺も好きだよ………ヴァネッサが大好きだ」

 

………………嘘…。そうなればいいって…そうなりたいって思ってたけど…本当?もしかして……夢?

信じられなくて、嬉しくて、何が何だかわかんなくなってアズライトに当たり散らした。

 

「傷つけたくなかった?ふざけないで!もうすでに傷つきまくってるわよ!アズライトのバカぁぁぁ!責任とってもらうからね!」

「ああ、ちゃんと責任は果たす。これからは殿下のお側でお仕えします。…ヴァネッサの一番近くにいるから」

「じゃぁ、今すぐ結婚して!プロセスなんて要らない!今すぐ『アズライト・ビリンガム』になってよ!」

「落ち着けって!ちゃんとプロポーズは俺からする…から………」

 

プ、プロポーズ!?本当にアタシと結婚してくれるの?アズライトがアタシの旦那さまになるの?ずっと一緒にいてくれるってこと?

えっ……ど、どうしよ…踊り出したいくらい嬉しい!ねぇ!アズライトと結婚できるんだよ!キャーーーーッ!アズライトと…アズライトと!

 

「殿下?………ヴァネッサ!!!俺の話、聞いてる?なんで泣いてるの?」

「そんなことも分からないの?バカッ………」

 

 

それから毎日デートを重ねたんだけど、なかなかプロポーズしてくれない。結局、待ちきれずにアタシからプロポーズ。王太女と山岳長子…何度も諦めたけど、諦めきれなかった恋は、アズライトの計らいで実を結んだの。

 

 

 

「アズライト…アタシのこと…いつから好きだった?」

「好きになっちゃいけないって思ってたから、ずっと『好きじゃない』って俺自身に言い聞かせてた…」

「………ってことは、ずっと好きでいてくれたの?」

「ま、まぁな…。ずっと好き…だったんだろうな…」

「アズライトって面倒くさい人なんだね!」

 

照れ隠しで言った言葉…。だけどアズライトはアタシの心を見透かしてるようで…

「素直じゃないな…本当は待ってたんだろ?かわいくないぞ」

そう言ってキスしてくる…誰もいない早朝のニヴの丘はここだけ別世界みたいで…時間がゆったりと流れてるように感じる。

「そろそろ行かないと結婚式に遅れるぞ」

「もう少しだけ…いいでしょ?」

 

アズライトの山岳姿はこれで見納めかぁ…似合ってるし、カッコいいから少し残念な気がするけど、たぶん王族服も似合う!いいえ、似合わない訳ない!このアタシが選んだ人なんだから!

11th◇大人の顔

 

二つ年下のシェダルさん。去年成人したとはいえ、まだまだ子供みたいなところがある。特に男に対して『警戒心』ってものが全く見受けられない。純真って言うか無垢って言うか…無防備過ぎる!

そんなシェダルさんが近頃、女性らしい艶っぽい顔をするときがあって、妙にドキドキさせられるんだ。きっと周りの男たちも気付いてる…シェダルさんの魅力に…。

シェダルさんは友達だと言うが、相手もそう思ってるかどうかなんて分かんないだろ?だから…私以外の男と仲良くして欲しくないんだ。私の身勝手な独占欲は日に日に強くなっていった。

この独占欲を満たすのは結婚しかない。そう思うがシェダルさんはまだまだ結婚なんて意識してくれてないようで…。

 

 

「シェダルさん…二人っきりになれるところに…行かない?」

「いいよ♪うーん、どこがいいかな?」

いつものように軽く返事をするシェダルさん。もしかして私のこと…男だと認識してない?私の『好き』と、シェダルさんの『好き』は違う?はぁぁぁぁ…やっぱり結婚なんて夢のまた夢なのかなぁ。

 

シェダルさんと訪れたのは森の奥にひっそりと建つ空き家の一室。

「うわぁ、ここに来るの初めて!こんな素敵な家、ジェローム君よく知ってるね♪」

「まぁね…。イム茶、持ってきたんだ。そこに座って飲まない?」

柔らかい陽が射し込むサンルーム。外の冷えた空気からも通りの喧騒からも隔離され、互いの息づかいさえ聞こえそうなほど静かな部屋。そこに置かれた座り心地のよさそうなソファへ誘う。

「ありがとう!わたしクッキー持ってるよ、一緒に食べよ」

他愛のない話をしながら、私はシェダルさんとの距離を詰める。

「…シェダルさん、もう少し警戒した方がよくない?」

「どうして?わたしジェローム君のことが大好きだもん!…もっとそばにいたいよ…」

あまりにも無防備なシェダルさん。私以外の男にも同じような態度を取るのかと思うと、だんだん腹が立ってきた。

「あのね…そう思ってくれるのは嬉しいけど…シェダルさんは女の子なんだから、男とはもっと距離を取らなきゃダメだよ。私だって何するか分かんないんだし、ましてや他の男なんて…絶対近寄っちゃダメ!」

「ジェローム君はそんなことしないでしょ!それに他のみんなもお友達なんだし大丈夫よ!」

どんな信頼なの…私のこともやっぱり男だと思ってないんじゃないの?凹むなぁ…

「大丈夫じゃない!お願いだから、私の言うこと聞いて」

「はぁーい」

そう言いながらもピッタリくっついて離れる気配なし。本当に分かってるのかな?私だって男…なんだよ………

 

 

「そろそろ帰ろうか」

立ち上がろうとした私の腕を掴み、すり寄ってくる。

「もう少しだけ…一緒にいようよ」

そう言って私の頬に唇を寄せてくる。だから…気を付けろって忠告したよね?無自覚なの?こっちは必死で堪えてるのにっ!

「そんなこと言わない!私だって本当は……」

恥ずかしそうに俯いたかと思えば、真っ直ぐ私の目を見つめ、抱きついて唇を重ね、舌まで絡めてきた。さっきまでの彼女とは別人のように艶のある大人の女性の色気を出して攻めてくる。………くっ!煽ったのはそっちだからね!

「嫌だったらはっきり言って!」

彼女をソファに押し倒し、首筋に噛みつくようにキスをした。

「っ………ゃっ………」

「そんなんじゃ止めないよ。ホントに嫌なら、ちゃんと抵抗して」

真っ白なシェダルさんの肌が桜色に染まる。

早く『嫌だ!』って言って!

 

「シェダル……」

「いいよ…ジェローム君なら…。わたしだって大人だよ?ちゃんと分かってる。ジェローム君となら……そうなってもいい…」

子供っぽいだなんて間違い。今、目の前にいるシェダルさんは…私を誘うシェダルさんの顔は…大人だ。私の男を引き出すのに充分過ぎるくらい魅力的な大人の女性だ。

 

 

 

すっかり日も落ち、部屋も冷えてきた。

「帰ろう…送るよ」

脱ぎ捨てた服を拾い集め、何事もなかったかのように身を整える。見た目はいつも通りに戻ったけど、私たちの関係は、ほんの数刻前とは違う。より深く分かり合った私たちは…もう離れるなんて…出来ない…そうだよね?

 

 

家まで送りながら、私はシェダルさんにプロポーズするって決めた。他の男から守るにはやっぱりそれが一番いい。……いや、違うな、私自身が彼女と一時も離れたくないんだ。ずっと…ずっとそばにいたい。

 

 

「ジェローム君、送ってくれてありがとう。今日は楽しかった、明日もデートしようね」

「明日は…ごめん。また誘って」

「そっか………残念」

「あ、そうだ!さっき言ったこと覚えてる?男とは距離を取るんだよ?分かってるね!」

「分かってるって!ちゃんと気をつけるから。ジェローム君、心配し過ぎ!」

さっきの艶のある顔とは違い、子供っぽい無邪気な笑顔で私に手を振る。明日はデートじゃなくて、ちゃんと神殿に誘うから…だからシェダルさん、おとなしく私を待ってて!

11th◇会えない時間…

あれから三日…ジェローム君と会えない日が続いてる。

どうしたのかな?具合悪いのかな?……それとも…わたし嫌われちゃったのかなぁ?

 

先に距離を取ったのはわたし。だって、ジェローム君のそばにいると、ドキドキして心臓が壊れちゃいそうで…。ずっと一緒に遊んでたのに『恋人』って関係になった途端、恥ずかしくなっちゃったの。そんなわたしをジェローム君は優しく包んでくれた。だから勇気を出してデートしたの。なのにそれ以来、会えなくなって…。

 

とうとう年が明けた。会うどころか姿すら見かけないジェローム君、元気にしてるんだよね?

人伝に、探索に行ってるようだと聞いた。ジェローム君の得物が斧だから坑道跡だと思って何度か行ってみたけど、やはり会えなかった。あぁぁぁ…本当に嫌われたのかな……。

 

仕事を終えて、ゆっくりお風呂に浸かって、今日もジェローム君に会えなかったなぁ…久しぶりに声くらい聞きたいなぁ………なんて考えてたら

「シェダルさん、会えて嬉しいよ」

突然背後から大好きな人の声がして…幻聴?どうせなら幻覚も現れてくれないかしら…なんて思ってたら、ギュっと抱き締められて…おまけにキスまで!

「ジェ、ジェローム君?えっ、本当にジェローム君なの?」

「ごめん…しばらく会えなくて」

「どうしてたの?全然会えなかったからっ…ふえっ……ジェローム君のバカァァァ…………」

「………本当にごめん!」

「ずっと何してたの?わたしのこと…嫌いになった?」

「そんな訳ない!大好きだよ!」

「じゃあ…何してたのよ!六日も会えなくて…すごく淋しかった!」

 

聞くと、魔獣の森でたまたまビーストセイバーを手に入れて、その剣がしっくりきて、おまけに切れ味もよくて、敵を倒すのが面白くなって、探索に明け暮れてしまった…と。

わたしは魔獣より魅力ない?ペピッサやガロッサに負けた?聞けば聞くほど落ち込んでくる…

「じゃあ、今度からわたしも誘ってよ。一緒に行くから!」

「でもシェダルさんはラダのお世話しないといけないでしょ?」

「いいの!絶対誘ってよ」

ラダなんかよりジェローム君と一緒にいたいの。探索でも釣りでも何でもいいから一緒にいたい…。ジェローム君はそう思ってくれてないのかな?

ジェローム君から見ればわたしって子供みたいだよね…童顔だし…胸だって全然成長してないし…はぁぁぁ、もっと…こう…色気があればなぁ……………

「何ブツブツ言ってるの?もう家に着いたよ。じゃあ、またね」

「ジェローム君が大好きなのっ!」

もう少し一緒にいたくて引き止める。

「シェダルさん…私がどれだけ我慢してると思ってるの…こんなことされたら…」

ジェローム君の優しいキス…じゃない!ふぁっ…立ってらんない……ダメ…なのに…

「シェダルさん…これ以上煽らないで…………また…ね…」

いそいそと帰ったジェローム君。……ジェローム君、真っ赤だった……わたしも負けないくらい真っ赤だよね。暑い…両手で顔を扇ぐ。さっきのキスは…大人のキス…だよね?ほんの数分前のジェローム君の温もりを思いだし…全身が火照る。しばらくの間、この火照りは波のように押し寄せ、なかなか引く気配をみせなかった…。