09th◇ destiny
▶ダイアナ
今日は親友エディの結婚式。
「エディおめでとう。とうとう所帯を持つのか…これからは友達より家族を大事にしろよ」
「当たり前だろ!それよりベク、また追いかけられてるみたいだな。ほら、来たぞ」
くそっ、ここじゃ逃げらんないじゃないか。あーもう!
「ベク君…あのさ…」
「ちょ、ちょっと待って!ダイアナ…何度も断ったよね?」
「そうだっけ?じゃあ、ハーブでも摘みに行きましょ」
そう言うと、構うことなく俺を引っ張る。振り返るとエディとアルがヒラヒラと手を振って面白そうに見送ってる。
ダイアナは3歳年下で、今年成人したばかり。俺から見ればまだまだ幼さの残るガキで、恋愛対象ではない。
「ダイアナ?ちゃんと俺の話を聞いてくれないかな?」
「聞いてるよ。でも、私は絶対ベク君のお嫁さんになるの!ベク君だってお嫁さんにしてくれるって言ったよね?」
うん、そのセリフは子供の頃から何度も聞いたよ。でもさ…子供の言うことなんて普通は本気にしないじゃん…
ダイアナとはいつ知り合ったのかさえ覚えていない。気付いたらいつも俺の後ろにいる…そんな感じだ。
「ベク君、幸運の塔に行こうよ」
何を言っても聞き入れてくれないダイアナには敵わない気さえしてくる。
何度目だ?……6回?いや7回かな?もうそろそろ諦めてもいいんじゃないか?
「私と付き合って!」
諦める気配なし…
「あーもう、分かったよ!どうなっても知らないからな!」
「じゃ、明日デートね。街門広場で待ってる、絶対来てよ」
負けた…俺には選択肢なんて最初っからなかったんじゃないか?
翌日、昼の街門広場は待ち合わせの人たちであふれ、ダイアナがどこにいるのか分からない。来てないのかな?
「ベク君、水源の滝に行きましょう」
いつの間に?やっぱ逃げらんねぇか…。
「もちろん送ってくれるよね?」
当然だろ、そのくらいのマナーは心得てる。
「今日はありがとう。また明日も待ってるからね」
帰り際、ダイアナにキスをすると真っ赤になってうつむいた。な、何だよ…いつも強気なくせに、急にしおらしくなりやがって!
「ベク君…」
「じゃあ、また明日…」
慌てて部屋を出た。何だよ!かわいいじゃないか!ガキだと思ってたのに!
しまった!今日はデートだった。探索行ってて時間を忘れた。すでに昼3刻を大幅に過ぎてる。慌てて走ったが、もうダイアナは帰ってるかもしれない。
「ごめん!遅くなった」
「もう!来ないかと思った!」
待っててくれたのか…。不安そうな、今にも泣き出しそうな顔して飛び付いてきたダイアナを思わずギュッと抱き締めた。
それからもダイアナは毎日デートに誘ってくる。そして神殿に行くことが多く…ブローチを持ってたり……俺は気付かない振りをして付いて行く。
「デートするの何度目かな?」
「さ、さぁ…どうだったかな?」
「これからもベク君とは一緒にいたいな」
「そう…だね…。家まで送るよ」
俺の後ろを付いて来るダイアナの手には銀の指輪。…背中に無言の圧を感じながら送り届ける。
「デート楽しかった。ダイアナ、これからどこ行くの?」
「神殿よ」
………………神…殿?今まで神殿でデートしてたよね?また神殿に行くの?
「い、いってらっしゃい!」
あーーーっ、どうする?取りあえず探索、探索だ。
もちろん、いずれはダイアナと結婚する。だが、もう少し独身でいたいと言うか…さ。しかしダイアナは今すぐにでも結婚したがってるよな?まぁ取りあえず…準備だけしとくかな。フラワーランドでエンゲージリングを物色してると…
「ベク、やっとその気になったか!」
「アル!いや、これは…違う!そういう意味じゃない!」
「照れんなって!後がつかえてるんだから、さっさとしろよ。エスティンさん、これください!」
アルに後押し?されたし、潮時か…。
「ダイアナ…俺と…結婚してください!」
「もちろん!ベク君遅いよ…ずっとプロポーズしてくれるの待ってたんだよ」
まぁ、返事は分かってたけど、それでもやっぱり緊張するもんだな。
「ダイアナは…いつ俺と結婚するって決めた?ずっとお嫁さんになるって言ってくれてたけど…」
「うーん、よく覚えてないけど…生まれる前からじゃないかな?」
「は?」
「なんか、前世…?生まれるずーっと前にベク君と約束したの」
「よくわかんないんですが…」
「私も!」
そんなダイアナだけど、結婚してからはしっかり俺を支えてくれた。
親父から兵隊長を任され、翌年にはリーグ戦を制し兵団長、評議会議長を務めた。
そしてエルネア杯…俺は龍騎士になるために、これまで精一杯努力してきた。勇者の称号を手に入れ、明日はバグウェルに挑む!そんな星の日の夜、父が21歳の若さでガノスへと旅立った。
悲しみに浸る間もなくバグウェルとの対決。
「悪いが勝たせてもらう!」
父親に認めてもらう為にずっと頑張って来たんだ。この試合…見てるよな?オヤジ!!
やっと父を越えられた気がする…龍騎士の称号はそれを証明するかのようだった。
「ダイアナ、俺…もう長くない気がする」
「……何言ってるの?ベク君らしくない!」
ダイアナとの間には3人の娘を授かった。長女は結婚して山を降り、次女が兵隊長を務めている。まだまだ兵隊長としては未熟な次女だが、ようやく伴侶を得た。三女の恋人は俺がよく知るいとこの息子、心配ないだろう。
これで…俺の山岳クルマン家の家長としての役目は全部…果たした…よな。もういいだろ?ただのベクルックスになっても…
「ダイアナ、愛してる…。こんな不甲斐ない俺に付いてきてくれて…感謝してる…ありがとう………………」
少し急ぎ過ぎかもしれないが、これでいいんだ。充分、楽しんだ…楽しい人生だったさ。
愛する家族に見守られ、ベクルックス・クルマンは笑顔でガノスへと身を移した。享年20歳…走り続けた人生だった。